藤沢周平の時代小説には、人生にまつわる本物の普遍性が随所に散りばめられている。藤沢周平の小説世界から、人生を読み取る意味は、まさに、そこにあるのだ。
(あとがきより)
書籍情報
書籍名:ヘタな人生論より藤沢周平—不朽の時代小説から読みとく「人生の重大な秘密」とは
著者:野火迅
出版社:河出書房新社
レーベル:ー
発売日:2009年08月21日
購入日:ー
読了日:2011年10月23日
目次
一章 家族のかたち
夫婦/父と息子/母と息子/父と娘/嫁と舅/兄と妹/兄と弟
二章 運命に生きる
禍福/別れ/再会/因縁/転落/
三章 心情を懐いて…
無欲恬淡/誤解/悔恨/郷愁/執念/老境
四章 女がいて、男がいる
忍ぶ恋/純愛/道行/好色
五章 信条をつらぬく
約束/一分/知足/忠誠/大尽
六章 勤めるという人生
仕官/浪人/借上げ/飼い殺し/主命
七章 頂点をめざす
上士と下士/派閥/立身出世/政敵/汚職
感想・備忘
良かった!以上!!
と言いたいくらいなんですが、これは明日の自分のためにもまじめにメモしましょう。久しぶりに夢中になって通勤電車で降りそびれました。この章構成がまたいいです。
歴女ブームのことを言っているのかはわからないですが、「オジサン、オバサンの領分を侵すようにして、若い男女がどしどし藤沢ワールドに押し寄せ始めた」といい、彼らは藤沢文学を「魂の滋養を摂取する「人生の書」」として読んでいる、いいことですなぁ…と感じる、時代小説家でもある野火氏による、藤沢ワールド入門書。
各テーマにまつわる藤沢作品を、本文の一部抜粋や、野火氏の個人的なエピソードなども交えて紹介しています。
藤沢作品を読んだことがある人は、おそらく「そう、そうなんだよ…!」と共感すること間違いなしで、藤沢作品を全く読んだことがない方にとっては、興味をもつきっかけになる、まさに入門書としてうってつけかと。ただし結構起承転結を言ってしまっているので、ネタバレNGという入門者の方にはおすすめできません。
私は歴史小説をあまり読まないのですが、その中で自らすすんで著作を買って読みたいと思う唯一の作家が藤沢周平です。元々大学時代のゼミの同期で、地元をこよなく愛する山形男児がいたのですが、彼が「藤沢周平がいいよ…!」と進めてくれたのがきっかけですが、「いい…!」と思う理由は、野火氏があとがきで言われている
しかし、江戸の世と現代につうずる「普遍性」は、やはり存在するのだ。まったく違った価値観・しきたり・信条によって隔てられた両時代においても、共通する愛と憎しみがあり、怒りと悲しみ、苦しみと楽しみ、野望と挫折、恍惚と不安がある―。そのことは、人間についての驚きを、あらためて感じさせる。
その驚きをとおして得られる人間の「普遍性」は、いうなれば、時代の篩にかけられた真性の「普遍性」である。藤沢周平の時代小説には、人生にまつわる本物の普遍性が随所に散りばめられている。藤沢周平の小説世界から、人生を読み取る意味は、まさに、そこにあるのだ。
というのに尽きると思います。
藤沢周平の作品には、司馬遼太郎が取り上げるような史上の人物はめったにでてきません。架空の藩の、ある普通の町人や、一介の武士や、そこそこ偉い人々が主役で、歴史を揺るがすような大事件が起こるわけでもない…。だからこそ、「情感の豊かな」と野火氏が言ったように、藤沢作品にはゆったりとした時間が流れて、それが物語りをしとしとと心に染みこませてくるのではないかと思うのです。
野火氏も「筆者も50を越えたら…」と、何度も節目として50歳を出してきていますが、本当に50を過ぎた男性陣にはお勧め。
あぁ、山形へ行きたい。
印象に残ったところ
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