わたしは、歴史家だ。みみずの這ったような字で書かれた古文書の文字のなかに、きらめくような一行があって、だれもしらない真実をみてしまった瞬間がたまらない。いつやってくるか知れぬ、その瞬間のために、生きているようなものだ。
-59ページ
書籍情報
書籍名:歴史の愉しみ方 – 忍者・合戦・幕末史に学ぶ
著者:磯田道史
出版社:中央公論新社
レーベル:中公新書
発売日:2012年10月24日
購入日:ー
読了日:2012年12月09日
レビュー日:2012年12月09日
目次
まえがき
第1章 忍者の実像を探る
忍者の履歴書
秘伝書に残された忍術
忍者の俸禄
赤穂浪士と忍者
甲賀百人組の居所
江戸の化学者たる忍者
毒物が語る闇の歴史
第2章 歴史と出会う
「武士の家計簿」のその後
ちょんまげの意味
北陸の妖怪目撃記録
幕末に飛び交った不気味な声
連月焼のぬくもり
頼山陽の真贋
皇族旧蔵品の発見
斎藤隆夫の命がけの色紙
子どもと歴史の感動
古文書が読めるまで
司馬さんに会えたらという反実仮想
第3章 先人に驚く
天皇土葬化のきっかけ
江戸の狆飼育
殿様のお世話マニュアル
江戸の食品安全基準
江戸時代の倹約効果
日本人の習性は江戸時代に
手塚治虫と幕末西洋医
トカラ列島宝島の薩英戦争
龍馬暗殺時の政局メモ
陰陽師の埋めた胎盤
この国の経理の歴史
福澤諭吉と学者の気概
皇族・華族・不登校
第4章 震災の歴史に学ぶ
和本が落ちてきて
小早川秀秋の墓
心の丈夫なる馬を用ゆべし
東北の慶長津波
地震活動期に暮らす覚悟
江戸時代の「津波避難タワー」
フロイスの地震記事を追う
津波ではじけた干拓バブル
地震の揺れ時間
津波と新幹線
第5章 戦国の声を聞く
石川五右衛門の禁書を読む
五右衛門が獲ろうとしたもの
国宝犬山城の見方
小田原城主、大久保忠隣
家康と直江兼続
江戸城の弱点と攻略法
毛利が西軍についた瞬間
島津の強みは銃にあり
井伊直政はなぜ撃たれたか
関ヶ原見物作法①家康編
関ヶ原見物作法②三成編
文献索引
人名索引
初出一覧
感想・備忘
2012年当時に記載したレビューを転記します。
著者は映画化された「武士の家計簿」の原作者であり、歴史学者である磯田道史氏。
武士の家計簿は当然知っていましたが映画、本とも見た事なく、この著者との結びつきも自分の中でなかったので、今回まるっきり初対面(?)で読みましたが、ものすごく面白かった…!!!
わたしが知りたいのは「歴史のほんとう」である。歴史のほんとうが、隠されていればいるほど、探り出すことに興味を感じる。
まえがき p2
誰も読んでいない古文書をみつけ、それを解読して、事の真実に迫る。わたしは、そういうものを簡平明な文章で書きたいと思って、本書をまとめた。
まえがき p3
ということで、 よくある歴史小ネタ本に留まらず、現代語訳化、一般書籍化されていない古文書から引っ張ってきたネタが多いため、私もこの本で初めて知ったことがたくさんありました。
「孫引き」ではなく、生史料からのお話は読んでいてワクワク!歴史ってこうなのね!とか、こうやって出会うのね!とか、まさに歴史の「愉しみ方」をまとめられています。
とにかく読んでいて面白い。
そういうわけで、ずいぶんとたくさんの古文書を読み、さかんに現地を歩いてみたのだが、率直にいって、楽しかった。
まえがき p3
理由はこの一文に尽きると思うのですが、著者自身がほんとうに歴史が好きで好きでしょうがないんだろうなと。
また、まえがきにも触れられている通り、東日本大震災を受けて著者は茨城から東海地震エリアの浜松に移住。
しかし、古文書を解読でき、なおかつ歴史時代の地震を研究する大学の日本史研究者が、東海地方には一人も常駐していない。これは困ったものだと思い、機会があったので、自らのぞんで、浜松の大学に転職し、江戸時代以前の地震や津波の古文書を探して研究する仕事をはじめた。
第4章は、この過程で書いていったもので、これから起こる地震について、歴史から何が予見できるのか。まえがき p4
こうした、現状のわれわれが突きつけられている課題について古文書の情報から何がいえるのか、ひとつずつ書いていった。
まえがき p5
として、第4章は過去の歴史事象と絡めた地震・津波などの災害史的な話が多くなっています。
本書の趣旨内容とは若干それますが、本書内には著者の若い頃などのエピソードが多く紹介されており、それを踏まえて今この心境で仕事に当たられている著者をみるとすごく感慨深いものがあったり。
その転換になったであろうことは、第3章の「福澤諭吉と学者の気概」に収録されています。
個人的に、「歴史って何の役にたつの?」という疑問については幾度も直面したことがあり、そのたびにその答えを探していました。
私の専攻、また恩師の面で、結果的には磯田氏が辿りついた社会への貢献の仕方に限りなく近いものになっていますが、つまりここで悩むと言うことは、逆にいうと歴史と現代社会へのつながりを示す「モデルケース」が少ないということなんじゃないかと。それこそ、ある意味歴史が「道楽」として捉えかねない一面の事実なんじゃないかなぁと。
勿論過去の先人が「道楽」としてこれに興じていたわけではなく、ただそれを受け継いだり掘り起こしたりする、そういう活かし方が不十分だったのは間違いないと思います。
震災以降、災害史や環境史学の活動が益々活発になっていますが、そのあたりの動きを含めて個人的に著者の今後の活動に興味が湧きました。
しかし、最後に関ヶ原の話をもってきたのはうまいなぁと思いました。きっとこれは狙ったに違いないと思っているのだけど、笑った。笑って終わったので、余計にこの本(歴史)が「面白い」と感じてしまうのでした。
ここから2024年の感想です。
この本についてはこちらでも感想をまとめています。
この本以降、著書を読めていないのですが磯田先生、メディアにも相変わらず出演されていたり、ご活躍されていて微笑ましいですね。
こういったメディアに研究者が出ることをについては賛否ありますが、いろいろな媒体で一定数そのジャンルの「席」がある、というのは大事なことだと思うので、その人の思想やスタンスを好きかどうかはさておき、私は肯定派です。
今の時代は特に、一般書籍のほかにTVやYoutube、X(Twitter)などいろいろな媒体があるので。
一坂先生もそうですが、一次史料や文献資料以外の成果物を含めて、一般の手の届きやすいところに情報を投げ続けるプロの方がいることで、メディアには出てこない第一線で点を打つ作業をされている方々を垣間見る機会が私のような一般人に与えられるので、松陰先生よろしくそれぞれの立場で出来ることをやりながら、「歴史」を盛り上げて未来につないでいきたいですね。
印象に残ったところ
歴史は魅力的であると同時に、人命さえ救いうる有用性をもっている。
ー 5ページ
日本人は、現状は追善するものでなく改善すべきものだ、と肝に銘じねばなるまい。
ー 66ページ
自分は歴史家の卵だ。自分がきちんと歴史を書かねば正しいことをして不遇に終わった人物は犬死にになる、と思った。
ー 55ページ
伝統的なのは、文化よりむしろ自然のほうである。つまり、この国には「文化伝統」があるが、それ以上に強固な「日本の自然伝統」がある。それを知っておく必要がある。
ー 149ページ
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