書籍情報
書籍名:吉田松陰――久坂玄瑞が祭り上げた「英雄」
著者:一坂太郎
出版社:朝日新聞出版
レーベル:朝日新書
発売日:2015年02月13日
購入日:ー
読了日:2015年04月23日
レビュー日:2015年04月23日
目次
はじめに
第一章 吉田松陰の実像
俗人離れした異端者
松陰誕生
松陰の幼少期
母は冗談好き
わずか六歳で吉田家を継ぐ
叔父によるスパルタ教育
九州遊歴
脱藩して東北へ
ペリー来航
アメリカ密航未遂事件
第二章 久坂玄随の生い立ちと松陰との出会い
玄瑞の兄の影響
相次ぐ身内の死
宮部鼎蔵との出会い
松陰への接近
玄瑞、打ちのめされる
松陰の戦略
松下村塾にはあまり通わなかった玄瑞
久坂玄瑞と高杉晋作を競わせる
第三章 松陰の妹・文と玄瑞の結婚
豊かになった杉家
玄瑞、文と結婚
文に贈ったメッセージ
玄瑞、杉家で生活を始める
江戸遊学
喧嘩の情報も送る
開国の勅許出ず
大老井伊直弼の登場
再び京都
松陰の暴走
草莽崛起の人となる
松陰、処刑される
第四章 「松陰の死」を利用する玄瑞
松陰の志を継ぐ
早くも伝記編纂始まる
墓前に刻まれた名
再び江戸行き
杉家がスポンサー
松陰の遺墨を同志に配る
武市半平太との出会い
松陰の強い武士意識
松陰改装を望む
藩主が松陰の供養を続ける
長井雅楽の登場
「草莽崛起」を龍馬に説く
坂下門外の変
寺田屋騒動
藩是は「奉勅攘夷」
松陰の霊を祭り上げる
シンボルが必要だった
イギリス公使館焼打ち
第五章 尊王攘夷運動の中で神格化される松陰
松陰改葬
松陰の著作が教科書に
将軍家茂の上洛
攘夷の先鋒
ついに外国艦砲撃
奇兵隊結成
八月十八日の政変
決死の覚悟
薩摩の密貿易船を沈める
死を演出する残忍な一面
進発か、割拠か
楠公祭で松陰を祭る
妻との別れ
禁門の変
久坂玄瑞の最期
二度の「長州征伐」
出版される松陰の著作
歪められていく松陰像
玄瑞の墓と遺族
おわりに
感想・備忘
2015年当時に記載したレビューを転記します。
純粋で俗人離れした異端者の松陰。義弟の立場をかさに着て松陰を徹底的に利用した政治家・玄瑞。玄瑞は、松陰のことを「尊敬はしているものの、付き合うには苦手なタイプ」と思っていた節がある。しかし、安政の大獄によって松陰が非業の死を遂げると、その死の利用価値に気づいたのもまた玄瑞だった。やがて玄瑞は、亡き松陰を尊王攘夷のシンボルとして祭り上げていく。
(カバーより)
「国賊」から「尊王攘夷のシンボル」へ
大河ドラマでは描かれない本当の吉田松陰像、そして、明治維新を実現させた影の立役者・久坂玄瑞の野望とは―
(表示帯より)
久坂玄瑞は、いかにして尊王攘夷のシンボルとして、松陰を祭り上げていったか
一、松陰の遺品を他藩の同志(土佐の武市半平太など)に配る
一、罪人だった松陰の改葬許可を幕府に求める
一、松陰の改葬を幕府が庇護した仏式ではなく神式で行う
一、藩校・明倫館の教材に松陰の著作を採用する
一、松陰の著作の出版事業に乗り出す
(裏表紙帯より)
高杉晋作研究で有名な、一坂太郎先生の著書です。
本書では、単純な師弟とは言い切れない松陰と玄瑞の関係やその生涯、玄瑞が政治運動の中で、松陰をシンボルに祭り上げてゆく過程を追ってみたい。
(まえがき p5)
一坂先生の他の著書を読んでいるとこの著書の流れも分からなくはないのですが、初見の方はタイトルで内容をイメージしてしまうと、本書が何を目的に書いたもので結局なにが言いたかったのか、読んだあと「???」となると思います。
大河では描かれない吉田松陰と久坂玄瑞、くらいのタイトルで良かったんじゃないかと本当に思います。
本書を読む前に、中公新書から出ている「長州奇兵隊 勝者のなかの敗者たち」という新書を読まれると、一坂先生の作風というか、この本の土壌が分かると思います。
第五章の「死を演出する残忍な一面」の詳細がもっと詳しく書かれています。
目次をみて分かる通り、本書は前半35%ほどが松陰、残り65%ほどを久坂の人生と長州藩を軸として展開していきます。
幕末の長州の主な動きはこの二人を追うと大体カバーできるので、資料も参照していますし、幕末長州の入門本として読むことも可能だと感じました。(長井雅楽や椋梨藤太などは別の本で)
以前は東行庵、現在は萩博物館特別学芸員など一次史料に携わっている方だけに、史料の引用をされているのが読んでいて面白いところですが、今回は分かりやすく書き過ぎていたかなぁ、と。
せめて巻末に参考文献一覧か、引用文のあとに史料元とか手紙の年月日を書いてほしかったなーというのがちょっと残念だったところ。
内容としては、幕末の長州が好きな方には目新しいことはないでしょう。だからこそ、「久坂玄瑞が祭り上げた」とか、松陰を「テロリスト」呼ばわりしている、という点に意識がいって、Amazon等の評価が真っ二つに割れるのだろうなーと。
本書の感想とは少しそれますが、個人的な感触として、一坂先生は高杉晋作は大好きなことは間違いないですが、だからって久坂が嫌いなわけでもないと思います。
確かに研究者としては学術論文執筆量はちょっと少ないのですが(CiNiとかで調べてもらうとすぐ分かります)、非常に丹念に史料を読み解き、また足を使った調査を行われている、「真面目な方だなー」というのが私の感想。
(昔講演を聞きに行ったことがあるのですが、そのときは長岡の北越戦争関係の墓石を調べている、とのことでした。その後何冊かの著書で、その調査結果がちらほら出てきています)
一坂先生は、(久坂はともかく)松陰先生のことを好意的に述べている著書もありますから、私情や推論で「テロリスト」という言葉を使っているわけではないでしょう。むしろ、史料を読み解くことで見えて来た、今までとは違う、別の視点を提示しているのだと思います。
同じ視点では見つからない新しい真実が、そこから見つかってくる場合もあるでしょう。
久坂大好きだった私としては、「長州奇兵隊 勝者のなかの敗者たち」を読んだ時はブルーになりすぎて一坂先生嫌いでしたが…、確かに「そんな見方もあるのだなぁ…」と目から鱗でもありました。
そしてそして!!
評価としては★3つなのですが、1個増やした理由は、187ページ目に掲載されている久坂秀次郎の写真です!
久坂秀次郎氏は久坂玄瑞の実子と認められた唯一の方ですが、母親が誰かは分かっていません。ですが、彼をみた品川弥二郎や野村靖などの松下村塾生らが「久坂の生き写しだ!」と、実子であるとしか考えられないほど似ていたという。写真が残っていない久坂…その肖像画はこの秀次郎氏をモデルに描かれたもの。
秀次郎氏の写真は昔山口の地方紙に載ったことがあるだけで、その写真は出回ることがなかったのですが…まさか新書で見れるとは!!!
私ははじめてみましたが、もう、想像を超える肖像画まんま!そしてイケメン!!
在りし日の久坂をみれたようで、感無量です。
久坂好きはこの写真をみるためだけでも買っていいと思います。
印象に残ったところ
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