書籍情報
書籍名:イギリスの情報外交 インテリジェンスとは何か
著者:小谷賢
出版社:PHP研究所
レーベル:PHP新書
発売日:2004年11月16日
購入日:ー
読了日:2017年01月09日
レビュー日:2017年01月09日
目次
まえがき
第一章 インテリジェンスとは何か
インフォメーションとの違い
イメージ構築としてのインテリジェンス
インテリジェンスと政策決定過程
第二章 イギリスの対日情報活動
人的情報源(HUMINT)と通信情報(SIGINT)
英国秘密情報部(MI6)
軍事情報部
内務省保安部(MI5)
政府暗号学校(GC&CS)
極東統合局(FECB)
第三章 情報分析から利用までの流れ
ホワイトテールにおける情報の流れ
合同情報委員会(JIC)ルート
秘密情報部ルート
外務省ルート
通信情報の活用方法―日米との比較
第四章 危機の高まり―日本の南進と三国同盟
一 ビルマ・ルート問題
チャーチル首相の登場
イギリスのジレンマ
対日宥和政策の選択
イギリス極東戦略の再検討
二 日本の北部仏印進駐
戦争行進曲の始まり
静観するアメリカ
三国同盟と極東委員会の設立
まとめ
第五章 危機の頂点―一九四一年二月極東危機
一 イギリス極東戦略最大の危機
二月極東危機とは
情報収集活動の機能低下
一九四一年初頭の東南アジア情勢
二 インテリジェンスの問題とその解決
情報収集過程における混乱
日英戦争勃発のシナリオ
大々的なプロパガンダ
英米の情報協力と危機の回避
まとめ
第六章 危機の緩和と英米の齟齬
一 松岡の訪欧
二月危機以降の英米関係と日本
チャーチル首相の時間稼ぎ
日ソ中立条約の成立
二 イギリスと日米交渉
間接的アプローチの模索
日米交渉に関する情報の収集
ハル国務長官との対立
イギリスの思惑
まとめ
第七章 危機の回避―日本軍の南部仏印進駐
一 イギリスの情報収集と分析
BJ情報と対日政策
南部仏印進駐の兆候
英極東戦略の転換点
二 英米による共同制裁の発動
アメリカの極東介入に備えて
南部仏印進駐と対日制裁
まとめ
第八章 イギリス外交の硬直化と戦争への道
一 対日経済制裁から大西洋憲章へ
チャーチル首相のラジオ演説
対日石油禁輸
経済対立から政治的対決へ
大西洋会談
二 イギリス外務省の対日強硬策
イギリスの最後通告
政策の優位とクレイギーの孤立
MI5のカウンターインテリジェンス
三 戦争への道
一〇月以降のBJ情報
暫定協定案、そして開戦
まとめ
四 むすび
危機を回避した大英帝国
あとがき
主要参考文献
人名索引
感想・備忘
2017年当時に記載したレビューを転記します。
老練なイギリス外交の背後には、常にインテリジェンス活動があった。古くは16世紀のエリザベス王朝の時代に始まり、20世紀初頭に活動を開始したMI6は世界中に名を馳せた。そしてチャーチル首相は、毎日のように届けられる暗号解読情報を、「私の金の卵」と呼び重宝したのだ。
本書は、近年公開された20世紀前半のイギリス情報関連史料をもとに、一九四〇年代のイギリスが、対日極東政権を推し進めるにあたって、インテリジェンスをいかに活用し、外交成果に結実させたのかを明らかにする。
(本書カバーより)
著者は防衛庁防衛研究所戦史部の助手(本書執筆時点)を務められ、現場とは言えないかもしれないが、それでも本書のテーマであるインテリジェンスを国内でおそらくかなり早く正確に知り得ることが可能な立場におられると思います。
本書は著者の博士論文を骨子にしているため、目次を見ただけでも分かりますが非常に分かりやすく読みやすい構成になっていました。
久々にこういった新書で、論文調のきちんとしたものを拝見した気がします。
現在、東アジア国際情勢の現状は刻々と変化しており、日本は冷戦後の混沌とした荒波に飲み込まれようとしている。従って最初の議論に立ち返るが、やはり日本にとってインテリジェンスを整備することが急務であり、そのための検討を進めていかなければならないだろう。
(まえがき p6)
とあるように、日本のインテリジェンスの遅れを知らない方も、本書を読んでイギリス(アメリカ)のそれと比較すると、その危険を理解することができるかと。(分かりやすさでいえば、入門書的な面で池上さんや佐藤優さんの本のほうがいいかもしれません)
イギリスは「二枚舌」「三枚舌」と呼ばれるほど外交が長けていた(いる)国として著名ですが、その戦略に欠かせなかったのがこの「インテリジェンス」の扱いであって、まずはこの国の手法を学ばない理由はないだろう、というのがベースの認識としてあります。
よって本書の狙いは、イギリスの情報活動を知ることによって、これまで曖昧にされてきたイギリスのインテリジェンスと外交戦略の関わりと明らかにしていくことなのである。
(まえがき p8)
としていますが、大英帝国の長い歴史をすべて詳らかにすることは当然紙面の関係で限界もあるため、「具体的には、一九四〇年から四一年にかけての日英米の国際関係を、インテリジェンスを通して見ていく」(p8)ということになっています。
私もこの話題には詳しいわけではないので、1章、2章あたりは概念や用語、この時代の背景などの説明を読み込むのに必死でしたが、そこから先は少しだけ「007」を見ているような気分になりました。
ちなみにこの本中古で買ったのですが、線引きがされていて、前の人は何を思ってここに線を引いたのだろうなぁ…と。(確かに中身的には重要なのですが)
こういうのは中古で本を買うデメリットでも、楽しみでもありますね。折角なのでその部分を引用。
従って一九四〇年から四一年に至るイギリス世界戦略の目標は、英独の戦いにアメリカを巻き込むことであり、そのためならば日本との戦争も仕方がない、というものであった。
一方、日本から見れば、この時期に南進政策を推進し始めたのはごく自然なことであった。資源の豊富な東南アジアは、主にフランス、オランダ、イギリスの植民地であったため、第二次大戦によってこの地域に生じた力の空白への進出は、日本にとって合理的な選択の一つであったと言える。チャーチルは、「フランスが崩壊した時(一九四〇年六月)に、どうして日本が(東南アジア)に打って出なかったのか、我々は不思議に思った」と感想を漏らすほどであった。従って日本の南進はイギリスにとって十分に予測できたことであったのである。
他方、日本の戦争プランは、イギリス、オランダを相手に限定するというものであった。これは日本陸軍が推進した方針であり、日英戦争が生じてもアメリカは参戦しない、という「英米可分」の方針に基づいていたのである。従って日英間の争いにアメリカを関わらせたくない日本と、何としてもアメリカを介入させたいイギリスの方針とは正反対であり、この点で日英のアメリカをめぐる争いは始まっていたのである。
(p62-63)
印象に残ったところ
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