日本史(室町~江戸末)書庫

【読書記録】江戸の性風俗

史料に感じ、過去を覗き見る。思えば歴史学とは、本来とてもエロティックな学問なのである。
– 220ページ

書籍情報

書籍名:江戸の性風俗
著者:氏家幹人
出版社:講談社
レーベル:講談社現代新書
発売日:1998年12月18日

購入日:ー
読了日:2017年11月25日
レビュー日:2017年11月25日

 

目次

プロローグ―良寛さんと「ひとり遊び」
第一章 川路家の猥談
名奉行川路聖謨/家族で猥談/母上も猥談が好き/「みな飯をふきたり」/お白洲で「ヘノコ」論争/武士家庭の真実

第二章 京都慕情―雅びとエロス
皇女の感想/尊王の人なれど/惜しむべき御人/美しき京都の貴公子たち/貴種に期待されるもの/植木枝盛、皇后の夢をみる/セクシーで神秘的

第三章 春画の効用
春画の由来/性生活の友/様々な呪力/贈り物として、江戸土産として/知識人たちの愉しみ/人生最後の春画

第四章 薬としての男と女
徳富蘆花の日記から/絵印にこめられた意味/儒者の心配/健康と自己抑制/五月の禁欲/母に報告された「回数」/房中補益の術/健康法をめぐるディレンマ/老人健康法、肉屏風/宴席の趣向/女性のための房中術/佐藤一斎の見識/屋根の上で腰巻きを振る/月水の薬効/褌を焼いて飲む/汚れが薬になった時代/ケガレと和合

第五章 男色の変容
薩摩隼人/谷崎潤一郎拉致未遂事件/美少年騒ぎ/川路の笑い話/戦士の習俗としての男色/女性排除思想/命がけの恋/殿様が殿様に恋をした/失われた恋愛

第六章 肌を許すということ
本当の「不倫」/「密通」か「蜜通」か/正義の「痴漢」/江戸時代風求愛の作法/「肌を合わせる」ということ/「肌のゆるしがたき人」/「口の物を食い合う」仲/性愛のにおい/人の絆のかたちとしての性

第七章 恋のゆくえ
宗次郎の死/心中は武士の手本/慕いに群がる見物人/心中死体への眼差し/”情死の国”日本/少年愛の影響/恋のために死ぬ

エピローグ―日本性愛史における江戸の可能性
主要参考文献及び史料
あとがき

感想・備忘

「性」の営みから語る江戸精神史
(本書帯より)

『武士道とエロス』の著者でもある氏家幹人氏の一冊。

江戸時代の性の等身大の現実を照らし出し、近代以降もっぱら春画や川柳、軟文学の類を通して定着してきた”江戸時代の性”に対する漠然としたイメージに風穴をあげるためにも、私たちはこれまでと違う角度から、異なる種類の史料と取り組まなければならないのです。
(p15-16)

として、幕末史では一度は名を聞く名奉行川路聖謨の日記『寧府紀事』を中心に、川路家で交わされていた猥談から当時の武家の性風俗を読み解いていっています。

川路家ではこんなことがあった、そして似たような例としてこんな話もある、という感じで江戸から明治の色々な人の日記(徳富蘆花、植木枝盛、柴田収蔵、平沢旭山、押小路甫子など)なども紹介されており、とても面白かった。

個人的には、心中死体に群がる人々というのが想像していた以上に本当にすごく群がっていて(船で見に行く絵が残っているとは…)驚きました。

史料に感じ、過去を覗き見る。思えば歴史学とは、本来とてもエロティックな学問なのである。
(p220)

という締めにとても満足。
最終章の最後に綴られる川路夫婦の描写には、不覚にもうるっときてしまいました。

…ただ、そこに到達するまでには、会社の休み時間や電車で読むには過激なワードが踊っているので、読む場所によってはとてもスリリングな一冊です(会社のデスクでちまちま読んだ人)

 

印象に残ったところ

限りある生を生きているからこそ、人は肌を許し合う”絆”を求め、はかない行く末と思い諦めるからこそ情死に心ひかれる。エロスの明暗、笑いと哀しみ。ことは既に江戸という一時代の問題を超えている。
─ 220ページ

旗本の老夫婦が、立派に成長した孫の手紙を身を寄せ合いながら繰り返し読んでいる姿……。時代の流れに翻弄されながら人生の黄昏を迎えた二人の間を流れる、しみじみとした夫婦の情愛を感じないではいられません。
─ 212ページ

恋はいつも死の陰りを帯びていましたが、人々はその陰影や湿り気の中にこそ恋の真髄を見出そうとしていました。
─ 201ページ

 

書籍など

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