コンピュータとぼくの間には、理解を妨げる壁は存在しなかったので、コンピュータにぐっと近づけた。機械と仲よくなるというのは、こんな感じなのだ。
ー 34ページ
書籍情報
書籍名:それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実
著者:リーナス・トーバルズ (著)/デビッド・ダイヤモンド (著)/中島 洋 (監修)/風見 潤 (翻訳)
出版社:小学館プロダクション
レーベル:ー
発売日:2001年05月10日
購入日:ー
読了日:2018年02月03日
レビュー日:2018年02月03日
目次
謝辞
序章 人生の意味Ⅰ
第1部 オタクの誕生
第1章 眼鏡と鼻と
第2章 初めてのプログラム
第3章 フィンランドの冬に
第4章 トーバルズ家誕生秘話
第5章 高校時代
第6章 大学と軍隊
第7章 フィンランド再び
第2部 オペレーティング・システムの誕生
第1章 シンクレアQL来る
第2章 人生を変えた本
第3章 ユニックスを学ぶ
第4章 三台目のコンピュータ
第5章 プログラミングの美しさ
第6章 ターミナル・エミュレーション
第7章 誕生
第8章 アップロード
第9章 著作権の問題
第10章 ミニックス対リナックス
第11章 ウィンドウとネットワーク
第12章 恋人!
第3部 舞踏会の王
第1章 初めてのアメリカ
第2章 商標登録
第3章 就職
第4章 シリコンバレーにようこそ
第5章 リナックスの成功
第6章 不協和音
第7章 株式公開
第8章 コムデックス
第9章 リナックス革命は終わったか?
第10章 押しつけるな!
第11章 舞踏会
第12章 サポート
第13章 知的財産権
第14章 コントロール戦略の終焉
第15章 楽しみが待っている
第16章 なぜオープンソースこそ筋が通っているのか
第17章 名声と富
終章 人生の意味Ⅱ
補足説明
解説
訳者あとがき
感想・備忘
原題直訳は、楽しいだけで充分だ(JUST FOR FUN)。
Linuxの開発者であるリーナス・トーバルズの回想(デイビットに宛てた電子メール)と、ジャーナリストのデイビットの回想によって綴られているような一冊です。
フィンランド生まれのリーナスの回想は、ヘルシンキ大学で統計学の教授をしていた祖父が持っていた、古い計算機の話から始まります。
ずいぶん昔の計算機は、ポンと答をだしてくれるような代物じゃなくて、そこんところが楽しかったんだ。一所懸命に計算しているのが分かったからだ。計算をしてるあいだ、ずっとウィンクをしてるみたいに点滅する。まるでこう言っているようだった――「えぇ、ちゃんと動いているわよ。この計算をするのに一〇秒かかるの。そのあいだ、どんなに働いているかお見せするため、目をパチパチさせるわね」
これはすごく魅力的だった。正弦値を計算するなんて単純なことでは汗をかきもしないままの計算機より、ずっとエキサイティングだった。ああいう旧式の機械を見ていると、こいつがやっているのは大変なことなんだとわかる。ほんとに実感させてくれる。p28
この計算機への言葉がなんだかとっても素敵で、この感性があったからこその後の人生なのかなぁ、と思いました。
第1部はそんな、Linux誕生に至る「リーナスはどんな環境で育ち、どんな感性を持っているのか」というのが記されている、伝記的な内容です。
第2部は、なぜ、どのようにLinuxが誕生したか、という、章扉の注意書きにもあるように少しコンピュータネタ寄りの内容。
第3部は、そのLinuxが成長していく様と、それに伴って(表面は)変わっていったリーナスのことが綴られています。
オープンソース現象を理解する一つの方法がある。――それは、何世紀も昔(現代の話ではないけれど)、科学が宗教界からどのように見られていたかを考えることだ。科学は、最初のうち、何か危険で、破壊的で、反体制的なものと見なされた――ソフト会社は時々、オープンソースをそんなふうに見ている。科学は宗教体制を攻撃しようとして生まれたわけじゃなかった。それと同じように、オープンソースだってソフトウェア体制を破壊するために考えだされたわけじゃない。オープンソースは、最高のテクノロジーを生み出すために、そしてそのテクノロジーがどこに行くかを見守るために存在するんだ。
p335
上記は最後のほうに出てくる一節。とても分かりやすい例えだなぁ。
お金が欲しくなかった理由は、いろいろあった。初めてリナックスをアップしたとき、ぼくは、他人の築いた基礎の上に――アイザック・ニュートンのいう「巨人の肩」に、みずからの研究を重ねていく何世紀にも及ぶ科学者たちの足跡をたどっている気分だった。みんなもこれは便利だと思ってくれるように、みんなとぼくのOSを共有したかった。それだけじゃなく、フィードバックも(それから、賞賛も)欲しかった。もしかしたら、ぼくのOSを改良してくれるかもしれない相手から、お金を取るのはおかしいと思っていた。
p151
第3部では「巨人の肩」という言葉が繰り返し出てきます。個人的にこの一節は、この本の中で綴られていた色んな時代のリーナスのLinuxへの考え方を集約しているように思われました。
私は1980年代後半生まれの<文系プログラマ>に入るのですが、この本と、落合陽一さんの『魔法の世紀』に同じような感慨を覚えました。
落合さんの言葉を借りれば、デジタルネイティブにあたる私にとって、経験してきたあの過渡期の意味合いを教えてくれるのが『魔法の世紀』で、ベースになっている世界のできた過程を知れるのがこちらの一冊だと思いました。
同世代の方はこの二冊をセットでお勧めしたいです。
とても面白かった。
印象に残ったところ
人生の意味について、ぼくはちょっとした理論を持っている。まず最初の章で、人生の意味について読者に語ってみよう。それで、読者をつかむことができる。つかんでしまって、本を買ってもらえばこっちのもんだ。あとはくだらないことを書いて、残りのページを埋めればいい。
ー 12ページ
すると、母は友人のジャーナリストに、この子は維持費のかからない子でね、コンピュータと一緒に暗いクローゼットに入れておいて、時々ドライパスタを放りこんでやればそれで幸せなの、と話しだす。まあ、当たらずとも遠からずだ。
ー 42ページ
ぼくたちはみな、ユニックスという森に放りだされた赤ん坊で、講義が進むにつれ、だんだんと成長していった。
ー 91ページ
「リーナスは小さな時に一度、妹に対する畏敬の念を簡潔に口にしたことがありました。五歳か七歳くらいの時で、彼は真面目な顔をしてこう言ったのです。『ねえねえ、ぼくは新しいことを思いついたりしないでしょ。ぼくは、他の人がもう考えたことを思いつくだけで、それを整理しなおすだけなんだ。でも、サラは誰も考えつかないことを思いつくんだよ』と」
ー 116ページ
……ところがある時、世界中からハガキが届きだした。現実の世界の人々が、本当に兄の作ったものを使っているのだと実感したのは、その時だったと思う。
サラ・トーヴァルズ
ー 119ページ
プログラミングをこれほど魅力的にしているのは、もちろん望み通りに動かせるということもあるが、それよりも、コンピュータがどんな風に動いているか自分で見つけださねばならないってところにある。
ー 121ページ
君は自分の世界を作ることができる。君にできることを制限するのは、マシンの性能だけだ――それから(最近ではこっちのほうが大きな理由になってきてるけど)君自身の能力だ。
ー 121ページ
マンデルブローは、現実とはまったく関係のない架空の世界の法則を勝手に造りだしただけなのだが、その法則が魅惑的な模様を作りだすことが明らかになったのだ。コンピュータやプログラミングでも、新しい世界を作ることができる。そして、時として、その模様は本当に美しい。
ー 123ページ
望んだことはなんだってできるけど、複雑にしていくにつれて、自分が作った世界で矛盾が生じないように気をつけなければいけない。世界が美しくあるためには、どんな些細な疵もあってはならない。プログラミングも同じだ。
ー 122ページ
偉大な数学者は時間のかかる退屈な方法で問題を解いたりしないってことだ。問題の背後にある真のパターンがいかなるものかを理解し、答を見つけるためにそのパターンを応用するだけだ。コンピュータ・サイエンスでもまったく同じことがいえる。
ー 125ページ
このプロジェクトを進める原動力となってくれる人がたくさんいるってことが、ぼくにはうれしかった。終着点が見えてきたって思ったことも、ほとんど完成したって考えたこともあった。でも、終わりは全然やって来なかった。
ー 170ページ
彼らはまた、望みさえすれば、誰でも手に入れることができる、もっとも美しく最高のテクノロジーを作りあげる全地球規模の共同作業の一翼を担っていることも愛している(リナックスは世界一の規模を誇る共同作業だ)。それだけのことだ。そして、それが楽しいのだ。
ー 191ページ
けど、ぼくは漠然とながら、ぼくたち人類が(進化ということじゃなくて)ただ前に進むしかない存在であることこそ、人類にとって最高の悲劇なんじゃないか、と思っている。
ー 233ページ
あとから来た者が、ぼくたちに新しい選択肢を与えてくれたからって、ぼくたちが何かを失ってしまうわけじゃない。かつては、なんの選択肢もなく、ただ純粋でいるしかなかっただけなんだ。
ー 249ページ
たいていの朝、ぼくは、世界で一番幸せなやつだなあと思いながら目を覚ます。
ー 259ページ
正直言って、ぼくは謙虚な僧侶のイメージがずっと嫌だった。かっこよくないし、退屈なイメージがあるし。それに、ほんとじゃないから。
ー 283ページ
生き残り、繁栄していくには、できるだけよい製品を作ることだ。それでも生き残り、繁栄していけないのなら、生き残っちゃいけないってことなのだろう。
ー 317ページ
成功の秘訣はいい品質を維持することと人々が望むものを提供すること。
ー 317ページ
もし、知識や技術を支配することで金儲けをしようとするなら、結局はうまくいかないだろう。それは独裁的だし、歴史を振り返れば、悪い結果しか見られない。
ー 318ページ
人々は、言論の自由について、屁理屈をこねたりしない。自由こそ、人々が生命をかけて守ってきたものなのだから。自由はいつでも、生命をかけて守るべきものだ。しかし、はなっから自由を選択するのもまた簡単なことじゃない。オープンソースについても同じことがいえる。オープンにするかどうか、決定を下さなくてはならない。最初からオープンにするという立場に立ってみると危なっかしくてしょうがないが、実際にやってみると、その立場はずっと安定したものになっている。
ー 338ページ
プロジェクトのすべての過程の中で、一番厄介なのは、監督権を放棄し、外部の者のほうがよく知っているかもしれないという事実を受け入れることだ。
ー 343ページ
プロジェクトに最初から欠陥があったかもしれないと認めることができる人物でなければならない。リーダーは、そういう問題から目をそむけたりせず、たとえ全部が台無しになったとしても、一番いいのは最初に戻ってやり直すことだと全員を納得させられる人物でなけれならない。みんな、そんな宣言は聞きたいとは思わない。でも、尊敬を集めている人物が言うのなら、みんなその宣言を受け入れてくれるだろう。
ー 343ページ
誰だって、名声や富を夢見ている。
ー 346ページ
人間が喜んで死んでいけるものはそんなに多くないけど、社会関係は間違いなくその一つだ。
ー 360ページ
「モノ」は他人に譲渡すれば自分の手元からなくなるが、「情報」や「知識」は他人に譲渡しても自分のところから失われない。 ー 376ページ
コメント