鳥尾小弥太

鳥尾小弥太没後120周年に向けての小話

2025年は鳥尾小弥太の没後120周年です。
切りのよい年は十年とか何年とかに一回やってくるので好きなところを節目にしていいと思うのですが、私としてはここを目標にゆるゆる調べてきたり、集めてきたものを一度自分の自己満足的な状態ではなく、ひとさまにも見て貰えるような形にできればな、と思って数年前からちょっとずつ準備を進めていたりします。

そのなかで、鳥尾の著書をなにかまとめて翻刻したいと思っていたのですが、現段階で『王法論』、『時事談』、『無神論』をできたらいいな…と思っています。『王法論』は明治政治史の関係からいくつか論文を執筆されている真辺将之氏が主に使用したもの。『無神論』は個人的に好きなので、せっかくだから、と。
そして『時事談』は、耳なし芳一などのお話の採録で有名な小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『日本人の微笑』という著書で引用したものになります。
そして、その『日本人の微笑』を孫引きして時事談の一節を冒頭に記したのが、ポール・ヴァレリーの『鴨緑江』というお話。ポール・ヴァレリーはジブリの映画にもなった「風立ちぬ、いざ生きめやも」の詩句のもと、『海辺の墓地』の著者でもあります。

この 『鴨緑江』←『日本人の微笑』←『時事談』の引用系譜については、関西学院大学の教授であり、ポール・ヴァレリーを研究されていた故・丹治恒次郎氏が史料を丹念に読み解くことで明らかにされておられます。…とは言いつつ、氏の論文が手元になかったのでちょうど今日NDLに複写をお願いいたしました。
届いたらちゃんと読もうと思います。

『鴨緑江』がどんな話なのかネットで見たのですが日本語で良い感じに転がってなかったので、ヴァレリー集成を購入。

めちゃくちゃ分厚いです。
鴨緑江はP154-162でした。せっかくなので一通り目的のまとめができたあと、他の作品も読んでみようと思います。

『日本人の微笑』用に上田和夫氏訳の小泉八雲集と、アトム英文双書の日本人の微笑。
アトム英文双書は、タイトルだけ見て目次や中身よく確認せず普通に間違えて買っただけなのですが、原本のジャパン・デイリー・メールが国立国会図書館でもマイクロフィルムでしか見れないようだったので、上田和夫さんの訳とこれで比較してみようと思います。
英文だと流石というべきか、OCRがサクサクいったので、上がったものちょろっと確認して手直すだけで良く文字起こしが楽勝でした。日本語は旧漢字とかあるからまだ精度が難しい感じですね。

なお、ヴァレリー集成の注記によれば、ヴァレリーのメモ帳には「a Japanese writer. Viscount Torio」と書かれているそうです。なんかキュンとします。

 

その他備忘

丹治氏の論文を取り寄せしたのと、久々に論文というものをちゃんと読むな…と思ったので、来年までに読み直そうと思っている鳥尾関連のものをいったん一覧化しました。
多分知らないだけでちょろっと名前が出てくるレベルなら他にもあるのですが、今のところ手元にあるのがこれだけです。(☆は取り寄せ中)

・石塚裕道「明治初期における紀州藩藩政改革の政治史的考察ー「絶對主義への傾斜」を中心としてー」『歴史学研究(182)』歴史学研究会編 1955
・山本四郎「三浦梧楼の大隈改正案反対上奏文案」『日本史研究(35)』日本史研究会編 1958
・山本四郎「三浦梧楼小論ー政党政治を中心としてー」『ヒストリア(26)』大阪歴史学会編 1960
☆丹治恒次郎「『極東』と『西欧』 : ヴァレリーと鳥尾小弥太」『外国語・外国文化研究 4』関西学院大学 1979
・山中永之佑「幕末、維新期における紀州・和歌山藩の兵制改革と人民」『日本法制史論集』牧健二博士米寿記念論集刊之会編 思文閣 1980
・村瀬信一「いわゆる「月曜会事件」の実相について」『日本歴史 (384)』日本歴史学会編 1980
☆丹治恒次郎「ヴァレリー ラフカディオ・ハーン 鳥尾小弥太 : あるテキストの連鎖をめぐって」『外国語・外国文化研究 5』関西学院大学 1982
・丹治恒次郎「ヴァレリーと「極東」–「鴨緑江」とその後」『ヨーロッパ文化研究(19)』関西学院大学 1990
・「一橋大学主催国際シンポジウム 東と西の対話 : ポール・ヴァレリーの眼差しの下に(一九九六年九月二十四日-二十七日)報告」『一橋論叢 117 (3)』1997
・真辺将之「議会開設前夜における保守党中正派の活動と思想」『史観(142)』早稲田大学史学会編 2000
・真辺将之「近代国家形成期における伝統思想ー鳥尾小弥太『王法論』の評価をめぐってー」『早稲田大学大学院・文学研究科紀要4』早稲田大学大学院文学研究科編 2001
・真辺将之「鳥尾小弥太における政府批判の形成ー『王法論』執筆までー」『日本歴史(657)』日本歴史学会編 2003
・石井公成「「禅と日本文化」という図式の先蹤 : 伊達自得と鳥尾得庵の活動」『駒澤大學禪研究所年報15』駒澤大學禪研究所 2003
・野村真紀 「近世日本における儒仏一致論とその展開」『北大法学論集, 55(3)』北海道大学大学院法学研究科 2004
・田上竜也「ポール・ヴァレリー『鴨緑江』 あらたな読解の試み」『慶應義塾大学商学部創立五十周年記念日吉論文集』慶應義塾大学商学部創立五十周年記念日吉論文集編集委員会 2007
・柏原宏紀「明治零年代後半における洋行官僚に関する一考察」『關西大學經済論集 67 (4)』關西大学經済學會 2018
・塚目孝紀「大宰相主義の政治指導ー第一次伊藤博文内閣における陸軍紛議を中心にー」『史学雑誌130 (8)』史学会編 2021
・Bruce Grover「Public opinion under imperial benevolence Japanese “national essence” leader Torio Koyata’s amti-liberal parliamentarianism in the Genro-in and the House of Loads」『Planting Parliaments in Eurasia, 1850-1950 : Concepts, Practices, and Mythologies』Taylor & Francis Group 2021

あと「【考察】鳥尾小弥太とキリスト教」で扱った土屋博政氏のものもありますね。
「明治零年代後半における洋行官僚に関する一考察」は最近見つけてまだパラっとしか見ておらず、巻末の官員一覧にしかいなそうなのですが内容自体が面白そうなので上げておきました。
「大宰相主義の政治指導ー第一次伊藤博文内閣における陸軍紛議を中心にー」も最近見つけて面白そうだったのでじっくり読むのが楽しみです。

最近少し思うのは、鳥尾は軍人、政治家、仏教家、という紹介文よりも、国学者のほうがカテゴライズとしては近いものがあるんじゃないか、と感じるのですが、完全に国学者かと言われると微妙で、じゃあ哲学者のカテゴリにいれてはどうか、というのも微妙な感じがします。
ただ、この今ある枠のなかに無理やり押し込もうとすると「なんか違うんだよな…」(=何やってるかよく分からないのでなんて形容していいか分からない)はそれはそれでそういうカテゴリだと思ったほうがいいので、今はまだ「よく分からんな…」にしておきます。

数年前も同じこと言っていた気がするので、私の人生ではなんかもうずっとそのままなような気もしますね。

 

参考

アトム英文双書のものは絶版になっており、中古は日本の古本屋(https://www.kosho.or.jp/)さんで出品されていることが多いです。

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