【覚書】文化財(国宝、重要文化財とか)の基準てなんでしょう。


重要文化財「供御所」(京都「下鴨神社」)
国宝、重要文化財・・・。博物館や美術館、神社やお寺に行くとよく目にする言葉です。文化財については学んだことがあるのですが、その基準についていまいち分かっていなかったので、調べてみました。

文化財とは

文化財とは、文化財保護法によると、以下のように定義されています。

文化財を「有形文化財」,「無形文化財」,「民俗文化財」,「記念物」,「文化的景観」及び「伝統的建造物群」と定義し,これらの文化財のうち,重要なものを国が指定・選定・登録し,重点的に保護しています。
文化庁HPより

また、文化財の指定・選定・登録は,文部科学大臣が文化審議会に諮問し,その答申を受けて行うことになっています。

(文化財保護法)
第三章 有形文化財/第一節 重要文化財/第一款 指定(第二十七条―第二十九条)
第二十七条  文部科学大臣は、有形文化財のうち重要なものを重要文化財に指定することができる。
2  文部科学大臣は、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。

ときどき聞く、「人間国宝」というのは、「重要無形文化財」に指定されたもので、個人が持つ技能や技術が指定された場合に、その個人のことを指すのですね。
それぞれの文化財の内容については、文化庁のHPに分かりやすい体系図があるのでご参照ください。
(デジタルアーキビストの試験を受ける場合にも役に立ちます笑)
文化財の体系図 - 文化庁

ちなみに、現在の文化財保護法は1950年(昭和25年)に施行されましたが、それ以前は1929年(昭和4年)から施行されていた「国宝保存法」という法律によって文化財が保護されていました。「国宝保存法」のときに指定された文化財は、その名の通りすべて「国宝」となっていましたが、文化財保護法の施行により、これら旧国宝は、一旦すべて重要文化財となりました
現在の国宝は、文化財保護法の基準によって新たに整理されたため、旧国宝のなかには当然、重要文化財となったものもありますが、これらは国宝から重要文化財に格下げされたわけではないのですね。
たまーに古い展示ケースとかをみると、「昭和十●年 重要文化財指定」とかいう付箋が隅っこのほうにいたりするのを見るんですが、あれは文化財保護法施行前は、国宝だったものなのかなぁ。

文化財の指定基準とは

文化財の指定基準は、「昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準)」という長い名前の告示で定義されています。

私ごとですが、昨日、千葉県の香取神宮に行きまして、宝物館も併せて見学してきました。
正直、あの!香取神宮の宝物館!!ということでドキドキしていたら、弥彦神社と大して変わらないというかもしかしたら弥彦神社のほうが頑張っているかもしれない・・・という感じでした(笑)
なんというか、神社の宝物館て(私が今のところ行った限りですが)、そう質実剛健といいますか…宝物館を出るまでが参拝だ!ってくらいこう、厳粛な空気ですよね。


ご神印

脱線しましたが、神社の宝物館ていうのはその神社の創建が古ければ古いほど、基本的に色々残っているわけで、香取神宮も国宝の海獣葡萄鏡をはじめとして普通に「古代」、「室町時代」とかのお品がぽんぽん飾ってあるわけですが、そういうのを見ていくと時代が古ければ古いほど国宝になってるわけでも重文になっているわけでもなさそうです。

というわけで、一番観る機会の多いと思われる「有形文化財」についてその基準をみてみましょう。
有形文化財は、文化財保護法によると以下のように定義されています。

第一章 総則/(文化財の定義)第二条
一 建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料

こうした有形文化財は、美術工芸品と建造物の大きく2つに分けられ、美術工芸品はさらに以下のように分類されています。2014年1月1日現在で、この美術工芸品に分類される重要文化財(国宝含む)の数は、なんと10,524!!

・絵画
・彫刻
・工芸品
・書跡・典籍
・古文書
・考古資料
・歴史資料

では、先述の告示より、上記の指定基準をみていきます。

絵画、彫刻

1)各時代の遺品のうち製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの
2)我が国の絵画・彫刻史上特に意義のある資料となるもの
3)題材、品質、形状又は技法等の点で顕著な特異性を示すもの
4)特殊な作者、流派又は地方様式等を代表する顕著なもの
5)渡米品で我が国の文化にとつて特に意義のあるもの
※国宝は、「重要文化財のうち製作が極めて優れ、かつ、文化史的意義の特に深いもの」。

工芸品

1)各時代の遺品のうち製作が特に優秀なもの
2)我が国の工芸史上又は文化史上特に貴重なもの
3)形態、品質、技法又は用途等が特異で意義の深いもの
4)渡来品で我が国の工芸史上に意義深く、密接な関連を有するもの
※国宝は、「重要文化財のうち製作が極めて優れ、かつ、文化史的意義の特に深いもの」。

書跡・典籍

1)書跡類は、宸翰、和漢名家筆跡、古筆、墨跡、法帖等で、我が国の書道史上の代表と認められるもの又は我が国の文化史上貴重なもの
2)典籍類のうち写本類は、和書、漢籍、仏典及び洋書の原本又はこれに準ずる写本で我が国の文化史上貴重なもの
3)典籍類のうち版本類は、印刷史上の代表で我が国の文化史上貴重なもの
4)書跡類、典籍類で歴史的又は系統的にまとまつて伝存し、学術的価値の高いもの
5)渡来品で我が国の文化にとつて特に意義のあるもの
※国宝は、「重要文化財のうち学術的価値の特に高いもの又は我が国の文化史上特に貴重なもの」。

古文書

1)古文書類は、我が国の歴史上重要と認められるもの
2)日記、記録類(絵図、系図類を含む。)は、その原本又はこれに準ずる写本で我が国の文化史上貴重なもの
3)木簡、印章、金石文等は、記録性が高く、学術上重要と認められるもの
4)古文書類、日記、記録類等で歴史的又は系統的にまとまつて伝存し、学術的価値の高いもの
5)渡来品で我が国の歴史上特に意義のあるもの
※国宝は、「重要文化財のうち学術的価値が特に高く、かつ、歴史上特に意義の深いもの」。

考古資料

1)土器、石器、木器、骨角牙器、玉その他縄文時代及びそれ以前の遺物で学術的価値の特に高いもの
2)銅鐸、銅剣、銅鉾その他弥生時代の遺物で学術的価値の特に高いもの
3)古墳の出土品その他古墳時代の遺物で学術的価値の特に高いもの
4)宮殿、官衙・寺院跡、墓、経塚等の出土品その他飛鳥・奈良時代以後の遺物で学術的価値の特に高いもの
5)渡来品で我が国の歴史上意義が深く、かつ、学術的価値の特に高いもの
※国宝は、「重要文化財のうち学術的価値が極めて高く、かつ、代表的なもの」。

歴史資料

1)政治、経済、社会、文化、科学技術等我が国の歴史上の各分野における重要な事象に関する遺品のうち学術的価値の特に高いもの
2)我が国の歴史上重要な人物に関する遺品のうち学術的価値の特に高いもの
3)我が国の歴史上重要な事象又は人物に関する遺品で歴史的又は系統的にまとまつて伝存し、学術的価値の高いもの
4)渡来品で我が国の歴史上意義が深く、かつ、学術的価値の特に高いもの
※国宝は、「重要文化財のうち学術的価値が極めて高く、かつ、歴史上極めて意義の深いもの」。

「学術的価値」という言葉が出てきますが、改めて考えてみると「じゃあ学術的価値ってなんぞや??」っていう疑問もわいてきますね。

“学術的価値”ってなんぞや?

というわけでこの機会に併せて調べてみました。

東京大学大学院理学系研究科では、博士論文にあたって「未知の事象・事物の発見、知られざる関連性の認識、新しい理論の展開、新しい学問的方法や機器の発明、又は、既存の描像の根本的変革など、学問の進歩に重要な貢献をなすもの」を学術的価値と言っておられます。
(『東京大学大学院理学系研究科における博士論文に関する指針』平成15(2003)年11月27日制定、平成22(2010)年10月13日改訂)

文系の博士論文の例をみてみると、大阪大学大学院文学研究科では、「未知の事象・事物の発見、新しい分析方法や理論の構築・展開、新しい学問的解釈や概念の提出など、人類の「知」の地平を拡大させるような貢献をなすもの」とされていました。
(博士学位申請論文の評価基準 - 大阪大学大学院文学研究科)

ちなみに私は学士論文しか書いていませんが、教授が口を酸っぱくして我々に言ったのは、「どんなに小さいことでもいいから、既存の研究に自分のオリジナルの新しい知見を加えること」でした。
総じて分かりやすくいうとそういうことなんでしょう。うーん、しかし難しい・・・。

ところで、そうなるとふと疑問に思ったのですが…とっても学術的価値のあるものが1つ見つかりました!国宝決定!ということがあった5年後くらいに、同じようなレベルの同じお品がもう1個見つかりました!となったら、後者も国宝ないし重文になるんでしょうかねぇ…。
後者が見つかったことによって、最初に見つかっていたものの研究もより進むのであれば、「学術的価値」の意味合い上指定されてもいいのかしらと思うのですが。難しい。

文化財の「指定」、「選定」、「登録」とは

さて、冒頭で述べた文化財の定義のところで、「指定」、「選定」、「登録」という言葉が出てきました。
深い意味はないのかなーと思うかもしれませんが、文化庁HPの「文化財の指定件数」をみると、はっきりと「指定」、「選定」、「登録」でカテゴライズされていて、どうもなにかここにも違いがあるようだということが分かります。
文化財指定等の件数 - 文化庁

このうちの「登録」については、「登録有形文化財」という言葉があるように、使いどころもはっきりしています。「登録有形文化財」は、文化財保護法で指定される文化財よりもう少し緩いレベルで設定された法律で、

近年の国土開発や都市計画の進展,生活様式の変化等により,社会的評価を受けるまもなく消滅の危機に晒されている多種多様かつ大量の近代等の文化財建造物を後世に幅広く継承していくために作られたもの

と、文化財保護法を補完する形で成立しています。
有形文化財(建造物) - 文化庁

このため、文化財保護法で指定されている文化財(重文、国宝含む)は、「登録された文化財」とは言わず、「指定された文化財」というのが適切になります。当然、登録有形文化財は、「登録有形文化財に指定されました」といっても間違いではないですが、「登録有形文化財に登録されました」のほうが良い、という感じですかね。

では、「選定」と「指定」の違いはなんでしょうか。
これがなかなか言いきっているところが見つからなくて唸っていたのですが、宮城県の「宮城県教育庁文化財保護課」がまとめた手引きにとっても分かりやすい解説が!!

選定は、文化的景観や伝統的建造物群保存地区及び文化財保存技術を対象に文部科学大臣が行う。文化的景観とは、都道府県又は市町村が景観法に基づいて定めたものであり、伝統的建造物群保存地区とは、市町村が都市計画法に基づき定めたものである。こうした規制地区のうち特に重要なものが、当該地方公共団体による申出を受けた上で、それぞれ重要文化的景観、重要伝統的建造物群保存地区として選定される。前者は法令等により、後者は法令及び当該市町村の条例によって保護に関する規制がなされる。
文化財保護の手引き,各種様式 - 宮城県

というわけで、手続きとかいろいろあるのですが、平たく言うと文化財のカテゴリー的には、文化的景観および伝統的建造物群保存地区に対しては、「指定」、「登録」ではなく「選定」が用いられる、ということになります。(文化庁の「文化財指定等の件数」もその通りとなっています)

文化的景観と伝統的建造物群保存地区

さて、せっかくなので、ついでにこの2つについて少し詳しくみてみましょう。

伝統的建造物群保存地区(文化財保護法)

周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの

伝統的建造物群保存地区は、通称「伝建」(でんけん)と呼ばれています。
岐阜県の白河郷、岡山県の倉敷などが有名なので、イメージしやすいと思います。


宿根木(しゅくねぎ)(新潟県佐渡)
ちなみに私は倉敷、金沢、宿根木を見に行ったことがあるのですが、宿根木を一番最初に訪れまして、当時右も左も分からず行ったら、こんな写真しか残っていません…(しかもインスタントカメラで撮った写真です…)


もしくはこんな入江の写真。綺麗でした。
いやでも佐渡はすごいよ、宇宙が広がってるよワンダーランド!

伝統的建造物群保存地区は、その名の通り建造物が主なのですが、居住者が観光業をメインとしている倉敷のようなところと違って、宿根木の場合はそこまで観光を押しているわけでもなさそうなわけで(もちろん、土産物や飲食店もありますが)、普通に人々が住んでいるんですね。
そのなかをウロウロ歩くのだから、正直どうなのかなーと、迷惑じゃないのかなーと不思議な気持ちで歩き回ったのがいい思い出です。

当然ですが、文化財に指定されるということは勝手な改変ができないので、中はともかく外側や建物の形を変えれないので、生活するうえで不便なこともあるでしょう。(有形文化財に指定されている建築物は、その関係で階段を見学者にやさしく緩やかにすることもできないし、エレベーターも付けれず、「バリアフリーにしたり、車椅子にも配慮したいけど難しい…」と昔学芸員実習で伺ったことがあります)

文化的景観の定義(文化財保護法)

地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの

平成16年から追加された、もっとも新しい文化財のカテゴリーです。
記憶に新しいところでは、世界文化遺産に登録された岩手県の平泉で少し話題にあがったことがあるので、ご存じの方もいるかもしれません。


文化遺産圏からは外れてしまいましたが、一関市本寺村。
自然の大地の高低差、地形に沿った水田区画が今も残り、風よけの為の防風林(地元ではエグネと呼ばれます)が点在する家々の同じ方角に立っているのが、この土地の歴史とそこに生きてきた人々の営みを感じさせてくれます。


脱線しますが近くの厳美渓で食べれるお団子。地震で一時封鎖されていたと思いますが、その後お団子どうなったのかな…。

絵図と景観が語る骨寺村の歴史―中世の風景が残る村とその魅力

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話を戻して西へ行けば、

遊子水荷浦(みずがうら)の段畑(愛媛県宇和島市)
限られた土地を余すことなく使い切るために段上に形成されていった畑たち。

段畑とイワシからのことづて (上) (愛媛民俗叢書 (2))

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新しいということもさることながら、「日々の生活に根ざした身近な景観であるため,日頃その価値にはなかなか気付きにくい」と文化庁のHPでもあるように、文化的景観とはちょっと理解しにくい、とっつきにくいものなのかなと思います。

かくいう私もそうで、名勝や伝建とどう違うのかがいまいち理解できていませんでした。
ちなみに名勝とは、

わが国のすぐれた国土美として欠くことのできないものであつて、その自然的なものにおいては、風致景観の優秀なもの、名所的あるいは学術的価値の高いもの、また人文的なものにおいては、芸術的あるいは学術的価値の高いもの

と「昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準)」で定義されています。
つまり「美しさ」の面が重要視されているのです。

文化庁のHPで、文化的景観に指定されている例をみてみると、農村景観が非常に多いことが分かります。そうすると、「あの景色だって美しいわ!」と思いませんか?棚田という、昔の古き良き日本!というイメージを彷彿とさせる田園風景は、「国土美」に欠かせない!って思いませんか??
一体なにが違うのでしょう。

文化的景観とは

では、棚田の景観は美しいから、のどかだから、日本っぽいから「文化的景観」として選定されたのでしょうか。
あまりに違いがよく理解できなかった私に、大学時代の教授はこう説明してくれました。

「風景」と「景観」は違う。
美しい風景、美しくない風景(汚い風景)とは言っても、汚い景観、とは言わない。
「景観」とは、見た目の美醜によって価値が決まるのではない
たとえなんてことない、見た目なにも無い「風景」が広がっていても、その「景観」の価値は何も変わらない。

個人的には、この話を受けてストン、と納得ができました。
昨今、「うつくしい景観のまちづくり!」と聞きますが、昔ながらの建物を復元して、道路を整備して、街路樹なんか植えちゃったりして、なんちゃって江戸時代なまちになっても、それは「美しい景観」ではありましょうが、学術的な価値のある、「文化的な景観」ではないのですね。
その土地の条件、気候、人々の生業、すべてが絡み合った結果、そこに営まれてきた「文化」、「人間と自然との相互作用によって生み出された」ものが、「文化的景観」であると私は理解しています。
(なので、逆に景観法とかの景観と、ユネスコや文化庁の「文化的景観」は似ているけど別物と考えたほうがすっきりです)

というわけで、皆様もぜひ、文化的景観指定地区を訪れた際は、その景観がどのように形成されたのか、思いを巡らせながら歩いてみてください。
そう、晴れの日でも暴風雨の日でも、そこには「文化的景観」が広がっています。
でもどうせならやっぱり晴れた日に美しい景色もみたいですね、正直…。

参考

文化財保護法 - 法令データ提供システム/総務省行政管理局
昭和二十六年文化財保護委員会告示第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準) - 文部科学省