昨日、ロシアのウクライナ戦略について記事を書きました。
そのなかで、「戦争責任」という言葉を使ったこともあり、実際にいま世界はこの情勢についてどういう見解なのかということを調べてみました。
ロシアの認識
まず当事者国のロシアです。
ロシア連邦外務省の公式HPをみてみましょう。なお2022年3月12日23時時点で、HPがめちゃくちゃ重いです。アノニマスが最近ハックしたということもありましたが、また断続的に続けているのでしょうか。
最初に前提として確認したのは、ロシアの認識する「国境」です。
なお、WEBサイトの情報を使用するにあたって利用規約も確認して、ちゃんとロシア連邦外務省からの出典だよ!って書いたらOKそうでしたが、何があるか分からないので念のためキャプチャをとっておきました。
出典:ロシア連邦外務省(Using website content)https://mid.ru/en/using_website_content/
2022年3月12日時点のロシアによる、ロシアの認識しているウクライナの国境は下記のとおりです。
これにより、少なくともロシアの戦車が大量に進駐している場所は、ロシアも「ウクライナの領地」だと認識していることになります。
本日ニュースも流れていましたが、国連会議でロシアがウクライナの生物兵器の使用を警告した件について、ロシア連邦外務省のHPにも記事があがっていました。
要約すると、
アメリカの管理下にあるウクライナの過激派グループが有毒化学物質を用いたいくつかの兵器を使用する計画をもっており、ロシアはウクライナに再三警告したけれど聞き切れられず、3/9には過激派グループがウクライナの北西部にあるゾーロチウでアンモニアを持ち込み、どういった使用をするかを市民に指示していた…
みたいなことです。
In particular, on the night of 9 March 2022 in the settlement of Zolochiv, north-west of Kharkiv, Ukrainian nationalists brought in 80 tonnes of ammonium. According to the information coming directly from the site of the events, radicals are instructing the civil population on what to do in a chemical contamination zone.
National document of the Russian Federation circulated in the Organization for the Prohibition of Chemical Weapons and the UN Security Council on 10 and 11 March 2022 “Regarding potential chemical provocations in Ukraine” ー ロシア連邦外務省(2021/03/11 17:16)
それに対する国連会議での各国の反応は全く書かれていません。当然、厳しく批難をしたウクライナ、イギリス、アメリカの代表のコメントなんてものは取り上げられていないので、これだけ見れば、国内の人々はロシアが実際に何をしているかは知ることができないというのも納得です…。
なお、ロシア軍いまどこにいるの、とロシア国防相のHPを見ようと思ったのですが2末からずっと落ちているようです。
どうも意図的に落としている気がします。(ベラルーシも見れませんでした)
なのでロシア軍の正式見解を得るのであれば、Twitter(@mod_russia)が確実のようです。
国際連合の認識
なお、この提言をうけた国際連合がどういう認識をしているかというと、こうです。
※太字マーカーはこちらでいれました
With the war in Ukraine now in its third week, UN political affairs chief Rosemary DiCarlo warned the Security Council on Friday that direct attacks against civilians and civilian objects are prohibited under international law, and may amount to war crimes.
『民間人や民間物に対する直接攻撃は国際法上禁止されており、戦争犯罪になる可能性がある』という、非常に強い警告です。これがロシア自身が常任理事国を務めている、国際連合の、現時点での見解です。
さらにこれらの直接攻撃は無差別攻撃である、と続けて記載されています。
As of 11 March, the UN High Commissioner for Human Rights (OHCHR) recorded 1,546 civilian casualties – including 564 killed and 982 injured – since the start of the Russian invasion.
The real casualty figures are likely “considerably higher”. Most have been caused by explosive weapons with a wide impact area, including heavy artillery, multi-launch rocket systems and air strikes.
Further, she said OHCHR has received credible reports of Russian forces using cluster munitions in populated areas – indiscriminate attacks, which are prohibited under international humanitarian law.
※上記引用元と同
なお、中立立場をとっている赤十字は、ロシアという国名を出してはいませんが、ウクライナには人道的危機が発生している、と述べています。
ベラルーシの認識
では、ロシアとウクライナの隣国で、ロシア寄りと報じられているベラルーシの見解はどうでしょうか。
2022/03/11のベラルーシ共和国大統領府の公式HPをみてみましょう。
※太字マーカーはこちらでいれました
“Fortunately, more and more people come to understand it. We did not attack them. We did not! The Armed Forces of Ukraine began to shoot preventively back when we were at your place two days before. We were in a helicopter. We got regular updates. It was them who started doing it. I will show you the place from where the attack on Belarus was being prepared. Had there not been a preventive strike on the positions (four positions, I will show it now, I have brought the map) six hours before the operation, they would have attacked the troops of Belarus and Russia, who were at the military drills,” the President of Belarus said.
“Therefore, it was not us who unleashed this war. Our conscience is clear. It is good that it was started.Biological weapons, the largest nuclear power plants … And all this was ready to be blown up. Now we see what is happening in Chernobyl,” the Belarusian leader said.
Negotiations with Russian President Vladimir Putin ー ベラルーシ共和国大統領府(2022/03/11)
私はスポーツ紙の夕刊の政治欄を読んでいるのかと思いました。(言葉がない)
これは…だめです…。
中国の認識
では色々噂の中国さんをみてみましょう。
2022年2月26日の時点で中国さんが出していた、ウクライナ情勢への中国の立場の記事をみてみます。
総括すると中立と主張していますが、ロシアのいっているNATOの件も汲んでくれよと、ロシア寄りのことを述べていますが、一部抜粋してみます。
※太字マーカーはこちらでいれました
Firstly, China stands for respecting and safeguarding the sovereignty and territorial integrity of all countries and earnestly abiding by the purposes and principles of the UN Charter. China’s position is consistent and clear, and it also applies to the Ukraine issue.
(略)
Thirdly, China has been following the evolution of the Ukraine issue, and the present situation is something China does not want to see.
It is absolutely imperative that all parties exercise necessary restraint in order to prevent the situation in Ukraine from deteriorating or even getting out of control. The safety of ordinary people’s lives and properties should be effectively safeguarded, and in particular, large-scale humanitarian crises have to be prevented.
(略)
China is always opposed to wilfully citing the Chapter VII in Security Council resolutions to authorize the use of force and sanctions.
FM elaborates on China’s basic position on Ukraine issue ー 中華人民共和国国務院(2022/02/26 08:51)
一つ目に挙げている、国連憲章の目的を遵守し、各国の主権と領土の一帯性を尊重する…というもの。また一般市民の生命を保護しなければならない、とおっしゃっています。
ということは、ウクライナの国際的に認められている領土に、国連憲章でいうロシアが侵攻している、という状態なので、きっときっと、中国はウクライナの領土を尊重してくれるはずです。はずです、ね!!
※3/9に趙立堅氏が正式にウクライナへの人道支援を表明し、中国の赤十字社経由で食料と日用品を送られたようです。
スイスの認識
永世中立国として君臨していたスイスさんですが、今回は中立的な立場からロシアの口座を凍結したらロシアから非友好国リストに登録されてしまったので、西欧に寄ったというよりも、客観的に「中立の立場に立ってロシアを批難はしていなかったが、ロシアがこちらを非友好国にしていしてきたので正当防衛でEUに協力します」って言っている感じですね。
https://www.admin.ch/gov/de/start.html - スイス大統領府
ドイツ語版のTOPページのキャプチャですが、「Krieg」と、「ウクライナ戦争」と呼称されています。
ちなみに英語版でTOPページを見るとメニューが若干違いまして、「完全版のこのサイトが見たい時は別の言語を選んでね」って出てくるため、TOPにいきなりこの文言は出てきません。
なんだろう、深い意味はないのかもしれないのですが、スイスの静かな意志を感じてちょっと敵に回したくないと思いました。
なお改めてなのですが、各国で標準的にサポートされている言語が国連常任理事国デフォルトで日本語がないので、やはり多言語はある程度学んでおかないと辛いなと思いました。
せめて紙の辞書か電子辞書がないと、故意に翻訳変えられちゃっても分からないですからね…。
システムは性善説でないと成り立たないとしみじみ思います。
ロシア政府の戦争責任はどのようになるのか
昨日書いた記事のなかで、ロシアのウクライナ侵略に対する責任はロシア政府にある、と書きました。
これについて、すでにスイスのSwissinfoさんでわかりやすい記事があったのでリンクを貼っておきます。
Will Russia’s leaders be brought to justice for Ukraine war crimes? ー swissinfo.ch(2022/03/10)
これによると、国際刑事裁判所(ICC)は、スイスを含む39の加盟国からの要請を受けて、ウクライナでの戦争の調査を開始しているとのこと。侵攻開始早々にウクライナは国際司法裁判所(ICJ)と欧州人権裁判所(ECHR)に、ロシアに対して訴訟を起こしていますが、結果としてこれが非常に早かったことが救いであったと述べられています。(調査に時間がかかるため)
そうして二点、気になる指摘がありました。
※太字マーカーはこちらでいれました
Putin is clearly guilty of aggression, says Sassoli, but war crimes are much harder to prove, as you have to show a direct link between the individual and the deliberate targeting of civilians. In this war it could also be complicated by the fact that Ukraine has encouraged civilians to make home-made explosives. And if they throw them at Russian soldiers, they will be legitimate targets of attack under international humanitarian law (IHL), Sassoli told swissinfo.ch.
Ukraine also violates IHL by parading captured Russian prisonersExternal link of war on social media.(略)
Putin and his entourage might however be careful where they travel due to the principle of “universal jurisdiction”. States (including Switzerland) who have incorporated this principle into their legislation can arrest suspected perpetrators of international crimes (genocide, crimes against humanity and war crimes) on their territory and try them in domestic courts. The Netherlands has also incorporated the crime of aggression under this principle.
Will Russia’s leaders be brought to justice for Ukraine war crimes? ー swissinfo.ch(2022/03/10)
1つめのマーカーについて。
SNSで投降したロシア人捕虜の映像を流すことはIHL(国際人道法)に反している、というものです。
これは昨日の投稿で私自身、WW2での日本の例をみて、「投降したロシア兵にウクライナで起こっていることを発信してもらう」ことを一つの方法としてあげたので、ダメだったのか、と思いました。
これについては後述します。
2つめのマーカーについて。
侵略罪を犯したものを自国内で逮捕し、自国で裁くことができるという法律がスイスとオランダにあることが述べられています。これ、日本はどうなんでしょうか。通常の犯罪を犯した外国人などは日本の法で裁いていると思いますが、そもそも「侵略罪」ってあるのか?と気になりました。
これは後日調べてみたいと思います。
国際人道法とは
さて、先述したIHL(国際人道法)ですが、恥ずかしながら知らなかったのでみていきます。
国連のHPにこのように説明がされていました。
国際人道法は、武力紛争の際に適用される原則や規則を網羅したもので、そうした事態にあっても人道を基本原則として掲げ、紛争当事者の行為を規制する。文民、負傷者や病人、戦争捕虜のような人々の保護について規定し、また軍事作戦を行う際の手段や方法を規制する。主要な文書としては、1949年の「戦争犠牲者の保護のためのジュネーブ諸条約(Geneva Conventions for the Protection of War Victims)」と1977年に締結された二つの追加議定書(1977 Additional Protocols)がある。
国際人道法 - 国連広報センター
そうして、おそらくSNSに捕虜の動画を流す、ということが違反しているといわれるのは以下の条項に起因しているようです。
※太字マーカーはこちらでいれました
第十三条〔捕虜の人道的待遇〕
捕虜は常に人道的に待遇しなければならない。抑留国の不法の作為又は不作為で、抑留している捕虜を死に至らしめ、又はその健康に重大な危険を及ぼすものは、禁止し、且つ、この条約の重大な違反と認める。特に、捕虜に対しては、身体の切断又はあらゆる種類の医学的若しくは科学的実験で、その者の医療上正当と認められず、且つ、その者の利益のために行われるものでないものを行ってはならない。また、捕虜は、常に保護しなければならず、特に、暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない。
捕虜に対する報復措置は、禁止する。
知財でも、『公衆』とはSNSなど電波通信網を含んでいる旨が定義されていたので、これを読んでなるほどなと思いました。ここでいう『公衆の好奇』とは、悪意のある言い方をすると「捕まったやつはどんなやつなんだよwww」みたいなノリのことだと思います。当然昨日提案したことはそういう意図ではありません。
しかし、確かに、『今実際にあなたが見て感じたことを伝えてほしい』と「捕虜にした側」に依頼され、本人も心の底からそう思っていて発信したとしても、それが『強要されていないか』ということの客観的な証明は無理であり、そこに正義があったとしても誰から見ても『公衆の好奇心』に捕虜を晒していないか、というのは、保障ができないのも事実です。
頭を抱えてしまいます。
きちんとした法はすべての人を平等に保護するがゆえの弊害を感じます。
私は素人なので知らないだけで、何か、このあたりを別の条約と照らし合わせて正当にクリアする方法があってほしい…。
今日の総括
昨日書いた記事のうち、ウクライナに投降したロシアの方にロシア国民に呼びかけてもらう、という方法は、今日見た限りでは難しいかもしれない、ということが分かりました。
しかし、国連やスイスがロシアの無差別攻撃やウクライナへの人道支援を述べていることから、ロシア国内にいる方でロシア政府の報告と、西欧諸国の報告が食い違っており、ロシア政府を信じている、という方には、こういった組織のHPにアクセスしてもらうということも全く無効ではないと思いました。
少なくとも、ロシアはウクライナの領土内で、民間人に死者を出していることは確かなのです。
ロシア政府には早々に軍を自国へ引くことを求めることは、やはり何もおかしいことではないと思います。
一日も早く、ウクライナの領内からロシア軍が退くことを祈ります。
参考
■ISW(戦争研究所)
アメリカのシンクタンク。国内ニュースで使われる侵攻マップの元データはこちらが提供しているデータによります。
※「Featured Report」というメニューからマップのあるページに飛べます
Institute for the Stud(https://www.understandingwar.org/) ー ISW(戦争研究所)
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