著作鳥尾小弥太

【鳥尾小弥太】兒戀草005

概要

本文

士夫外に職に勤めて録を求む。婦人内に在て奢り。心に任せて之を濫費す。これ易の所謂雷澤歸妹の象なり。其上狡を窮むれば。家を破り徳を棄つ。人生の大禍これより甚だしきはなし。
衣食住の三つは。人の依りて以て生存する所以のものなり。就中食を重とし。衣と住とは之に次ぐ。是故に婦人の職は。専ら庖厨の事に勉むべし。住居は一回之を設くれば。修覆して十年廿年を保つに足る。衣服は一回之を設くれば。洗濯して三年五年を保つに足る。但飲食は。一日三回必ず之を調ふ。身を養ひ命を繋ぐ。これより急なるはなし。人若し食を廢することを得れば人事の八九を減じ。清浄寡欲にして。恰も神仙の如くなるべし。されば飲食は。人生の急務。一生の大事なり。之あるが為めに勞し。之あるが為に勤む。然るに家を守り。内を齋ふるを以て職とする婦人にして。之を鹵莽にす。其甚しきは。婢僕にうち任せて顧みず。斯くの如きは。無頼の子弟の其家に禍するよりは。その害更に甚し。かゝる婦人の癖として。一向ら華美の風を慕ひ、外聞を粧ひ。容體を飾り。動もすれば不足をその夫に訴ふ。これ人の婦にあらず。人の母にあらず。全く一種の妖怪なるべし。所謂金毛九尾の狐の遺糵ならんか。

 

意訳

夫は家の外で仕事に勤めて録を求める。妻は家の中にあって奢り、心のままにその録を濫費する。
これはいわゆる雷沢帰妹(夫婦不和)の相である。
そのうえで怠けてばかりいれば、一家は破産しその徳は捨てられる。人生の大禍としてこれよりひどいものはない。
衣食住の3つは、人がこれをもって生きていくためにそういわれる。そのなかでも食を最も重要とし、衣と住はこれの次である。
それゆえ、婦人の役目としては、もっぱら炊事のことに勉めるべきである。
住居は一回これを建ててしまえば、修復して十年二十年と保っていける。衣服は一回これを手元においえしまえば、洗濯して三年五年もつであろう。
しかし食事は、一日三回必ずこれを用意する。これによって身を養い、命を繋ぐ。これより差し迫ったものはない。
人がもし食べることをやめることがあれば、人生の八、九割は減り、清浄寡欲となって神か仙人のようになってしまうだろう。
そうであるから食事は、人生の急務である。一生のなかで最も大切なことである。
これがあるために苦労し、これのために働くのである。
そうであるから一家を守り、家の中のことを整えることをもって仕事とする婦人がそれを疎かにしたり、もっとひどくなると、手伝いのものに任せっきりで自らは顧みないというのは、遊び好きの子弟がその家に厄介になるよりもその害は甚だしい。
こうした婦人の傾向としては、もっぱら派手なものを好み、外面を繕ってその恰好をかざり、なにかあれば、まだ足りないと夫に訴える。
これは人の妻ではない。人の母でもない。
全く一種の妖怪である。いわゆる九尾の狐の末裔ではないだろうか。

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